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2017/04/02

天長祭祝詞

天長節祝詞 折口信夫
明治四十一年十二月「國學院雑誌」第十四巻第十二号

高光る日の本つ国、かはらず菊の花はさきぬ。あはれいざぎよき、姿かな。しづごゝろなきよものあらし、おきまさる夜毎の露じもに、うつろはぬかのにほひのたふとさよ。この花のひとよのうちに、もゝくさのこゝろふかきことの葉のこもれるこゝちぞすなる。青雲のたなびくきはみ、しほなはのゆきとゞまるかぎり、国といふくにのおほかるが中にも、わが日の本の国ばかりすぐれたる国はあらざりけり。かけまくもかしこけれども、皇御孫のみことあもりましけるはじめに、すめ神のよさしたまへるおほむことよさしは、遠ながき天つ日つぎをさきはへて、つぎ〱の大王みなおほめぐみふかく民をあはれませ給ふより、いやさかえにさかえきつる中にも、今の大君こそはかのおほ言よさしに、まほにさきはゝれ給へり。御代のはじめより種々のわざは、まがことゆきかひたるをはらはせたまひ、いそしみたまひつるおほみわざは、菊の花の秋さく色ににたりとやまをさん。されば大御恵まねくたらへるわかみかど、大八洲のうちにありとある人々そのなりはひをはげむべき中にも、わきてわれらまなびの道にあるものは、いよゝいそしみはげみて、大君の大御心にこたへまつらでやはあるべき。この御祝のむしろにつらなりたる人々にかはりて、大君の手長の御代をいかし世にさきはへ給ひ、八桑枝のいよゝたちさかえしめたまひ、白玉の大御白髪かきたり、赤玉のあからびまさしめ給はむことをことあげこひのむは。



この祝詞は『折口信夫全集27巻』(中央公論社、平成9年)によります。

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